第2回 特許調査不可能な未公開出願への対応

2013/04/25 1:02 に Atsushi NOZAKI が投稿   [ 2013/04/25 1:02 に更新しました ]
【発表者】:(株)パットブレーン 代表者 片岡敏光


テーマ : 特許調査不可能な未公開出願への対応
(特許調査における技術予測へのTRIZ適用)
特許調査を行う場合、調査対象の特許情報の技術範囲、期間、作業量、索出可能性を予測する必要がある。新人や新規分野を手がける場合や調査経験が浅い場合など、予測の勘が働かず困ることも多い。特に、出願から1年半以内の未公開出願の存在は、外国出願の要否決定などに影響を与えるだけに、技術予測面からも対応を真剣に考えなければならない。


【調査案件】2004年6月の某新聞にA社が新光記録方式・DVD・CD対応3波長記録
再生光学ヘッド開発と報道された。 その掲載記事によれば、 

  ①開発開始 : 同年2月頃 
  ②特徴    : 3波長LD・接合ホログラム/レンズ・倍率変換 
  ③特許出願 : 詳細非発表だが、かなりの数を出願した。

とある。従来品と開発品との比較は下表の通りである。この記事を見て、同社の技術開発動向及び特許戦略を知りたい企業から、新聞発表直後
に調査依頼があったとして考察する。 (以下「本件」という)

開発品従来品
サイズ(mm)82×50×32BD部 80×55×25、
DVD/CD部 45×20×29
機能3フォーマット記録再生BD:記録再生 DVD/CD:再生
光学部品点数20点26点(BD部19点+DVD/CD部7点)



【公開情報による調査と技術予測】

陥りやすい情報源の選択
   ●本件の技術分野における公開公報だけをサーチ対象として選択し、調査結果に
     基づき、時系列マップなどのパテントマップを作成し、過去の技術動向を分析し、
     未公開期間中の本件に関する特許出願の内容、及び将来を類推し技術予測を
     行う。
    勘違いしやすい理由
:開発開始が2月頃で、新聞発表及び調査依頼があった
     のが9月ということであれば、その間に出願されたものは、1年6月経過していな
     いので、未公開期間中の出願であり調査が不可能と答えてよいと間違った考え
     をしてしまう。

常識的な情報源の選択
   ●前記の場合、出願と同時かその後、出願審査請求され、審査の結果、登録となった
     ものは、公開公報が発行されずに、直接、登録公報が発行されることを忘れている。
     この登録公報発行件数は、下記のように、発行件数は少ないが、同じか類似の技
     術分野で、公開公報未発行の登録公報が発行されていれば、その技術分野におけ
     る審査官は、特許法第29条の2の適用が可能な他の未公開出願案件が無いこと
     を確認した上で、発行されている公開公報掲載の発明より新規性、進歩性があると
     いうことで登録しているであろうと考えられ、技術予測のための判断材料が増え、
     判断基準の変化を補正できる。特に、同じ技術分野の特許の可能性判断について
     は、この情報の有無は判断結果に相違を生じ、予測の確度は高まる。
期間特許実用新案
20020101~20021231503500
20030101~20031231611534
20040101~20041231993446
20050101~200512311256766
20060101~20060928454968

Web情報など、特許情報以外の他の情報源を参酌しての判断、および技術予測
   ●本件については、新聞発表を前後してA社のホームページ上で装置の原理的ブロ
     ック図や外観写真が鮮明に掲載されており、技術動向予測の有力な情報源となっ
     た。


【TRIZ(トゥリーズ:発明的問題解決理論)による技術予測】

   非公開出願への対応という視点で、技術予測を行う場合、250万件もの多量な特許
   情報を、発明レベル、技術予測、問題解決の視点から分析し、理論付けられたTRIZの
   技術進化予測に照らして考察することは、権利化や技術予測の確度を高めるために
   役立つと考えられる。

Web情報など、特許情報以外の他の情報源を参酌しての判断、および技術予測
①技術進化の法則 : 技術進化のパターンは、産業/科学の分野を越えて繰り返
     される。

   ②発明原理、標準解: 問題とその解決策は、産業/科学の分野を越えて繰り返さ
     れる。
   ③目的機能で検索する知識: 技術革新は、当該分野の以外の科学的効果を利用
     している。

   これら3つの発見の中で、技術進化の法則は、特許調査における技術予測に役立つ
   と考えられる。発明の目的や効果を分析することによって、技術進化の法則で用いら
   れるSカーブ上の位置を特定することが可能となる。



【本件技術分野についての調査と分析】(2004年9月時点)

   ① 特許庁Fタームリストより、5D789 FA08「光学ヘッド」観点「複数光源」選択
   ② 検索対象期間 : H05年1月8日~H16年6月24日
   ③ 検索結果及びクレーム検討
ヒット数クレーム上の3波長表現クレーム上の2波長表現
A社32件2以上表現(H14.4.25/10.17)2件、
3波長対応ヘッドは索出できず
18件(H13.9.18~)
B社11件3波長対応ヘッド1件(H14.9.3)
+複数波長4件(H14.3.19~)
5件(H14.4.30~)


【TRIZで適用される技術進化のパターン】

   下記の4つのパターンが該当すると考えられる。
(番号) トレンド名トレンドが表す進化の段階
(17) 単一-二重-多重
         (類似物)
単一システム → 二重システム → 三重システム → 多重システム
(23) 顧客の購入の焦点性能 → 信頼性 → 便利さ → 価格
(24) 市場の進化一次産品 → 製品 → サービス → 経験 → 移転
(27) トリミング複雑なシステム → 副次的構成要素の消去 → 副次的サブシステムの消去 → トリミングしたシステム
   ④ 2004年9月時点での考察:A社の特許明細書は、2つの波長が必須と受け取れる
      表現で書かれてあり、光源又は波長が3以上という考えが見受けられない。発明
      者、知財担当者に心理的惰性が生じていたのでは?これに対し、B社の特許明
      細書には、 A社より早い段階から3つ以上の複数を意識した表現が見受けられ、
      将来を見越した技術開発が行われていたように思われる。もし、A社が、TRIZの
      技術進化のトレンドを理解し、この観点でクレーム起案していたらどうなっていたで
      あろうか? B社は、TRIZを技術開発に活用している企業であることを加味して考
      察すると興味深い。


【TRIZの技術進化のトレンド分析と予測の効用】

   ① 技術者、知財担当者が、過去情報に囚われ心理的惰性に陥ることを防ぎ、発明
     認識と発明本質の把握が可能、クレーム、特許出願明細書の質向上(実施例豊
     富化etc)に貢献
   ② 先行技術調査不可能の期間、サイテーション分析不可能期間でも、個人差の少
     ない合理的な予測が可能、スキルUP
   ③ 無駄な出願費用削減に貢献、発明の先取り、強化に役立つ
   ④ 出願審査請求の可否判断を戦略的に行える
   ⑤ 権利維持、ライセンシングの可否判断を戦略的に行える

   以上により、知財のリスク低減、コスト低減が期待できる


  追記:2004年9月時点の考察では、先発のA社の方が後発のB社より、逆に劣勢との
      結論に達していたが、2006年の発表時点でふり返ってみると、当時の技術予測
      は概ね的中していたと言え、TRIZによる特許調査における技術予測の有効性が
      証明されたと考える。
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